KANTA CANTA LA VITA

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2006年 04月 03日

大家から出された「妥協案」について⑥

穏やかに数日が過ぎ去り、その穏やかさの中で僕は新しい家を決めました。ただ、僕の方からそのことを言う時ではないということが何となく感じられ、大家には、まだ探している最中であることにして実はすでに決めてしまっていることはもう少し黙っていることにしました。

穏やかさの中にも何か知らんの煮え切らなさを彼女は感じたのか、実際には僕は煮え切ってしまっているのですが、ある晩食事をしようと台所に向かう僕を捕まえて、ついに最終手段に出ました。

「なんて青白い顔しているの!!ちゃんと食べてるの?」

「ちゃんと」食べてるかどうかは怪しいところですが、少なくとも生きれるくらいには食べているつもりだったので、彼女のその言葉は多少僕を驚かせました。ただ、鏡を見ると、いつもと変わらぬ普段の僕の顔です。

「ちょっとこっちに来なさい。一緒に食事しましょう。ピザ買ってくるから。」

え?ピザ?

「いやいや、僕のことは気にしなくていいよ。いつもと変わらないから。」

しかし彼女は奢ると言って譲らず、20ユーロ札を握り締めて階下のピザ屋へ向かいました。イタリアに居ながら普段あまりありつくことの出来ないピザを食べれるのはうれしいのですが、明らかに変です。なぜ、奢ってくれるのか、なぜ彼女自ら買いに行くのか、なぜビールまで買うとか言っているのか。答えは自明です。引き留め策の再発動です。

すぐに戻ってきて「さあ、食べましょう。」と言ったときの彼女の笑顔は、今にして思えば、人を穏やかにするそれではなく、あの「ギラ・ニヤ」だったように思えるから不思議です。

悲しいかな、僕はそうした状況下で食べ物が喉を通らなくなるような神経の繊細さは持ち合わせず、さらには「何でビールって言ったのにコーラなんだよ。」と心の中で不平を言う始末。ぺろりと自分の挽肉ピザを平らげただけでなく、彼女が残した分まで食べてしまう始末。こういう人間は多かれ少なかれ罠にひっかかりやすい、これは一般論です。当然彼女は僕が最後の一切れまで飲み込んだのを見計らって、「ところで」と切り出しました。

「ところで、新しい家は見つかったの?なかなか大変でしょう。」

98%決めていたにもかかわらず、僕は「まだ物件を見定めている途中」と彼女に言いました。具体的な交渉段階に入ったとは言え、決定的に100%ではないという点では嘘はなかったと思います。それでも実際に何件か部屋を見に行っていることは彼女を驚かせたらしく、

「わたしはCantaに、この家に残ってほしいの。」

と、少し慌てた様子で彼女は付け足しました。むむ。重要な局面であることはこれまで以上に感じられます。そして実際にその場は、誤魔化したり先延ばしにしたりできるようなこれまでのものとは全く異なる、全てをはっきりさせる時だったのです。

「この数日で僕らの関係が前のように戻ったこと、あなたの僕に対する接し方にはとても満足しているよ。ピザもおいしかった。それでも、僕がこの家から出て行くことに変わりはないよ。」

「でも300ユーロで家を探すなんて大変でしょう。そんな家があるなら私が住みたいくらいだわ。」

「見つけるのは大変だけども、そういう部屋が存在するということはわかったんだ。それにほとんど決めかけている。まだ決まってないけど決まりつつあるんだ。」

「でもそういうところは狭いし古いし、こことはずいぶん違うでしょう。」

「家の中の騒ぎには慣れられないけど、狭さとか古さには慣れられる。」

「少しくらいなら家賃下げれるわよ。300ユーロは無理だけど。」

「300ユーロの家を見つけたんだ。」

「・・・。」

「・・・。」

「じゃあ、22日で出て行くのね。」

「22日で出て行く。」

これで決まりでした。すごくすっきりしました。関係を保ったまま、否、良好な関係をその良好なまま終える、何となくそれが出来そうな気がしました。彼女との出会いが運命なら彼女とのこういう別れも運命だったのです。(つづく)
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by kantacantalavita | 2006-04-03 19:13 | 親愛なる日記 | Comments(0)


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