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2006年 09月 01日

『ホームムービーの日 in Italia』 報告

(画像はクリックすると大きくなります)

『ホームムービーの日 in Italia』 報告_e0017332_1305739.jpgHome Movie Day 2006 in Italia
Giornata Internazionale del Film di Famiglia – IV edizione
San Gimignano (Siena), Sabato 12 agosto 2006

第4回 家庭映画国際記念日「ホームムービーの日」
於:トスカーナ州シエナ県サン・ジミニャーノ(イタリア)
日時:2006年8月12日(第2土曜日)
   10:00~19:00 持ち込みフィルムの受付とフィルムの状態確認(ドゥオーモ広場)
   21:30~ 上映(モンテスタッフォリ城砦 → 雨天のためレッジェーリ劇場に変更)




『ホームムービーの日 in Italia』 報告_e0017332_1471587.jpg2006年8月12日、イタリアはトスカーナ州シエナ県、町中いたる所にそびえ立つその塔で有名なサン・ジミニャーノで開催されました「ホームムービーの日」(以下HMD)に参加しました。参加したとは言いましても、ただ様子を見てきただけでして、それでも一昨年の大阪会場、昨年の京都会場に協力・参加した経験もありますので、イタリアにおけるHMDの現状を及ばずながらここで報告いたします。

HMDは2003年にアメリカ合衆国で初めて開催されて以来、今年で4年目を迎えるイベントでして、イタリア国内では2004年のマルケ州ペーサロPesaro、2005年はトスカーナ州アレッツォArezzoに続き、今年のサン・ジミニャーノ会場での開催が第3回を数えます。いずれも家庭映画国立アーカイブArchivio Nazionale del Film di Famigliaとその内部組織と思しき(未確認です)ホームムービー協会Associazione Home Moviesが主催し、各自治体や当地の映画関連団体の協力を得て開催されています。アメリカや日本では国内各地でそれぞれ何らかの団体が主催し開かれるのに対し、イタリアでは同一の主催団体が毎年開催地を選出するという方法を採っているわけです。これは、イタリアでは8月15日の聖母被昇天の祝日に前後して休暇期間に入ることが関係していまして、普段大都市部に暮らす人々はこの時期一斉に帰省し、人影も疎らとなった大都市部とは対照的に、日頃人気の少ない地方都市が活気づくという背景があるのです。日本にもお盆休みはあり、欧米では日本のそれからは想像もできないくらい長い夏季休暇があるのですが、イタリアのそれはどうやら、より「地元色」が強く、同時にそこには「家族と過ごす」という傾向も含まれているように感じられます。

 会場であるサン・ジミニャーノには当日11時頃に到着しました。生憎の空模様で、というのも事前に確認したところによると、21時半からのフィルム映写は野外上映を予定していたからです。降らないことを祈りつつ、まずは、門をくぐって城壁内(旧市街、いわゆるサン・ジミニャーノ)に入り、フィルムの持ち込み場所となっているドゥオーモ広場Piazza del duomoを目指しました。前記のようにサン・ジミニャーノは世界的に有名な「美しき塔の町」であり、花の都フィレンツェや近隣の主要都市シエナからの交通もイタリア的に整備されているため、ひとつひとつの通りやそれぞれの広場にあふれる観光客の多さに、日頃ボローニャでは、学生と暇で行く所がなくなったかのような観光客しか見ていない僕はややうろたえてしまい、それでもそのうちの何割か、あるいは何分何厘かの人々が一般的にはまだまだ無名に等しい慎ましき映画の祭典のためにわざわざやってきた(少なくとも僕と友人二人はそうなわけですから)と信じながら町のさらに中心へと歩を進めます。
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 広場に到着し最初に目を引いたのは、他でもないクラシックな映写機と撮影機の展示、それらを見物する人々の群れでした。(下のフォトギャラリーを参照してください。)機材はそれぞれ、コレクターでありその場の監督者でもあるアントニオ・ピニョッティAntonio Pignotti氏によって美しい状態で保存されたもので、しかもいずれも正常に起動するものらしく、幾らかなりとも映画に関心のある者、アンティークに興味を持つ者、あるいは通りすがりの観光客の目さえも引かずにおかない代物でした。集まった人々の質問に答える氏の、慎ましくも頑なな職人然とした佇まいが印象的でした。
 しばしそれらの機材を写真撮影し同時に見惚れた後で、展示の横でモニターに視線を送る人、フィルムを光にかざして点検している人、真剣な面持ちで話し込む人たち、談笑している人たちの方を横目で窺います。傍にあるテーブルの上の、無造作に積まれた8mmフィルムのパッケージ、フィルムの扱い方、その慣れた手つき、見るからに関係者です。フィルムと同じテーブルに薄型テレビが設置され、デジタル化された家庭映画が流しっ放しになっています。その明らかに「その筋の人々」という一団の中に見覚えのある人物がいます。パオロ・シモーニPaolo Simoni氏です。『ホームムービーの日 in Italia』 報告_e0017332_153939.jpg直接の面識もなく、まして言葉を交わしたことなどある訳ない彼ですが、一昨年のHMDについての映像に映っていたのは間違いなく彼であり、幾つかの関連文章に見かけたのも彼の名前のはずです。忙しそうに立ち振る舞う彼の手が空くのを見計らって、完全に舞い上がりながらも声をかけてみました。日本で同じ映画祭に関わっていた者である旨を伝えると、仲間を呼んでくれ、さらにそれぞれに紹介までしてくれました。個人的に知り合ったHMD関係者ではロンドンの『ホームムービーの日 in Italia』 報告_e0017332_1535651.jpg人物に次いで2人目とのこと。ボローニャで映画の研究をしていること、チネテーカに居る時間が自宅の次に長いこと、アーカイブの存在は知ってはいるがまだ訪ねていないことを伝えると、「いつでも来てくれ。」と好感触を得ます。日本ではどのようにしてHMDが始まったかを問われ、知る限りで答えました。名刺を渡し、アーカイブの訪問を約束して、一時その場を離れることにしましたが、完全にボローニャに置き去りにしたR10の不在を嘆きました。

 『ホームムービーの日 in Italia』 報告_e0017332_223688.jpg一帯の名物である猪肉のソーセージ入りパニーノ(サンドイッチ)で昼食を済ませ、宿にチェックインしたたところで、心配していた雨が降り出しました。幸か不幸か、小路が小川になるほどの土砂降りではありますが通り雨のようでもありましたので、長くなりそうな夜に備えて十分すぎる休息を取り、18時ごろに起き出して再び旧市街の中心地に向かいました。すでに映写機の展示とフィルム受付のテーブルは撤収済みで、雨天によりドゥオーモ広場に面するレッジェーリ劇場が代替会場として用意される旨を張り紙が伝えておりました。暗くなる前に本来予定していた会場、モンテスタッフォリ城砦も訪ねてみると、丘の上に作られた町サン・ジミニャーノの、さらに一番高いところにある元会場は夏の野外上映と共通の施設で、オリーブの木が植えてある庭のようなスペースに、予想に反して大きなスクリーンが設置されていました。座席数はゆうに100を超えそうです。この会場で上映できなくなったことは残念ではありましたが、雨後の冷えもあって会場変更を幾分喜びつつ、代替の劇場に期待し、その場を辞しました。

 『ホームムービーの日 in Italia』 報告_e0017332_313995.jpg代替会場に到着したのは21時少し前で、数人のお年寄りが入り口前を陣取り談笑しておりました。HMDの客でしょうか。21時を回るも依然として開場せず。急遽変更になった会場の設置に走るスタッフ。21時30分には開場できるだろうとのことでしたが、案の定ずれ込み21時半を過ぎてようやく入場です。とても立派な、地方の小都市としてはすごく立派な劇場は、修復された18世紀の建物とのことで、この町のかつての繁栄ぶりを垣間見た気がしました。いつの間にか人々が集まっており、なかなかの賑わいです。しかも、次から次へと増えていく模様。客層は主に年配層ではありますが、若い人たちも少なく、どうやら最年少は免れたようです。最後部に席を取り劇場内を撮影し、先のピニョッティ氏と言葉を交わしていると、22時を過ぎてようやく、主催者の代表であるシモーニ氏と協力者であるクラウディオ・『ホームムービーの日 in Italia』 報告_e0017332_3134257.jpgジャッポネージClaudio Giapponesi氏が登場し、挨拶とHMDの紹介をしました。前氏はその言葉の中で、HMDが世界中で開催されているイベントであることに触れ、前HMD京都のスタッフ(!!)も日本から来ていると述べたのには、重要なのはそこではないはずなのにやや照れました。「画面が揺れたり止まったり、飛んだり跳ねたりしますけど、フィルムとはそういうものなんです。」的な発言には大いに共感を覚えた次第です。
 上映開始。まずはDVDの映像を映写し、これから映写されるフィルムとの違いを感じて欲しいとシモーニ氏が言い及びます。映写中、観客たちがずいぶん大きな声で喋っている(独り言、あるいは会話)ことは大変興味深く、というのもそれもそのはず、そこに映る映像は彼らが生きた町の映像なのであり、客席のあちこちからスクリーンに向かって名前が呼ばれるのも、映っている人を呼んでいるわけで、それも一度や二度ならず、さらに様々な席からその声は聞こえてきて、会場はやんやの賑わいに。イタリアの映画館では少なからず、スクリーンに映る映像に対して向けられる観客の賛否の言葉が驚くほど露骨に聞こえてきたり、字幕を含む全ての文字情報(DVD上映なら「画面設定」とか「あと~秒で電源が切れます」とかいったものまで)を声に出して読む光景を目にしたりすることがあるのですが、そのとき僕が体験したものはそれと似ているようではあるけれどその実ずいぶん違うものでして、そもそも家庭映画は黙って見るものではなく、もちろん黙って見てもいけないことはないのですが、それよりは見ながら思い出を語り合い、あるいはその場面を思い返してその場に居合わせなかった者に映像と言葉でもって伝えることによって、そこにある映像を共有するものであることを考えれば、慣れるまでは不思議な感じもしますが上映中に喋り捲るのはHMDでは当然のことなのです。さらにHMDでは映写中やその前後に、撮影者やフィルムに映っている人がコメントを求められることがあるのですが、それは家庭映画のそうした性質によるわけです。映像では小さな女の子だった女性が記憶を手繰りながらその思い出を語っていると、客席からその母親が「そうじゃないのよ。」とでも言わんばかりに立ち上がり最前列まで歩いていってマイクを握った光景は、それだけで映画的な体験でありました。
 小さな劇場とは言え、最後部の2階席から舞台上のスクリーンに投射できる映写機と、その光源に耐えうるフィルムの力に、総じて感動を覚えました。
 
 いくつか印象的なフィルムをここに記します。1957年のサウンドフィルムは、両親の銀婚式の旅行(シエナ-サン・ジミニャーノ間)を撮影したもので、編集もしてありました。ひとつしかないサウンドトラックに音楽と台詞を交互に入れる方法は、シンプルな技とは言え独特の効果を持っており、大いに楽しみました。開場前の時間に歩いた道と城門が映るフィルムは、そこに暮らしたことのない僕たちのような旅行者でも共有できる感動・喜び・興奮でした。ドゥオーモ広場で行われたカーニバルのパレードの映像では赤色はどこまでも赤く、兄弟が遊ぶ見たこともない玩具の映るフィルムは、その上映で初めてその玩具の存在を知った僕がその場に居合わせただけですでに映像資料です。1953年のドゥオーモ広場が映るサン・ジミニャーノ初の16mmフィルムやサッカーの試合を撮ったフィルム。後者では、競技の映像と昼食のそれが同じくらいの分量で含まれていて、イタリア的で良し。プレイの一つ一つに客席から声が上がるのも楽しみました。教会内を撮影した映像がほとんど真っ暗で知覚できないのは映写機の光量のせいか知らん。画面サイズを小さくして何とか観ることができるようになりました。

収穫は大きく分けて二つありまして、ここでは資料的価値とか保存の意義とかはこの際置いておくとして、まず第一に、初めての「イタリアのホームムービーの日」がとても楽しかったこと。新しい発見や日本での開催の参考になりそうなことが多く得られました。古い映写機の展示は間違いなく人の目を引きますし、僕自身もとても興味あるわけで、50年以上も前の機械が完動品として残っていることはそれだけで感動的ですし、収集家の方々にはしてもしきれない感謝をするに至ります。また、フィルムの映像は、それがフィルムで、目の錯覚を利用した「魔術」であるだけで面白いですし、テレビなんかも同じ目の錯覚を利用してあるとは言え、どこかしら理解の及ばないところがあって、もちろんフィルムの魔術も理解はできないんですけれども、その上で家庭映画にはそれぞれの楽しみ方がありまして、映っている物に興味がある人、映っている人に関心を持つ人、映像それ自体(よく8mmはその画面の粗さが良いなんて言われますね)が好きな人、家族愛などという普段は目に見えにくいものをその映像に見出そうとする人、それこそ50人の観客なら50通りの、100人なら100通りの楽しみ方がある、幅のある映像なのです、家庭映画は。場合によっては実験映画以上に実験的で、物語映画以上に物語ったりすることもあるのです。
 収穫の二つめは、同じようなことに関心を持つ人たちに知り合えたこと。考えようによっては、すでに9ヶ月か過ぎてしまった留学生活で、最も留学生的な一瞬だったとも言えそうです。少なくとも文化交流の芽生えのようなものはありましたし、毎度苦労する奨学金団体への留学報告のネタにもなりますし。冗談はさておいても、家庭映画のように「開かれて」いて、「可能性に富んだ」出会いだったと言えると思います。アーカイブ訪問にしても、自身でコンタクトを取って訪問するか、担当教授(アーカイブ創設者の一人らしいです、ちょっと前に知りました)の助力を得て訪ねるか決めかねてここまで来てしまったので、今回知り合った人々との再会の場になるであろうアーカイブ訪問に期待せずにはいられません。このたびのHMDに参加して、ますます家庭映画国立アーカイブという組織の存在が興味深いものとなり、その訪問を我が急務とすべきことを再確認しました。

最後に、リグーリア州インペーリア県ディアーノ・カステッロ町からトスカーナ州シエナ県サン・ジミニャーノ町までの旅を可能にしてくれた友人夫妻と突然の訪問を快く受けてくれたHMDイタリアの主催者の皆さんに感謝します。


フォトギャラリー
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日本におけるHMDの模様はこちらから
ホームムービーの日REPS「HMD主催者による意見交換・情報共有の場」

by kantacantalavita | 2006-09-01 03:04 | 映画とは何か(cinemaについて)


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