2007年 02月 23日
チネテカ(内のチネマ・リュミエール)訪問について書いた外部連載コラムでイタリアの映画館における「休憩intermezzo」について少し触れましたが、先日読み終えたリチャード・ラウド著、村川英訳の『映画愛』という本に面白い、というか面白くなりそうな引用がありましたので、さらに引用します。 その夜は二つあるプロジェクターのうち一つしか動いていなかった。付け加えれば、プリントには字幕が入っていなかった。・・・・・・リールを変えるために十五分毎に明かりが点けられたが、このために映画のエピソードがふえたようにも思われた。こうした条件の下で上映されたにもかかわらず、フィヤードの傑作は、その魅力の背後に潜んでいる美学的な原理をはっきりとあらわしていた。映画が中断するたびに「アッ」という失望の声が上り、新たに再開されるたびに解決を望むため息が聞かれた。物語は我々の注意をひきつけ、我々は物語から生じる緊張感によって、ただそれだけで完全に魅了された。中断のために前のアクションが途切れることなど論外であった。・・・・・・〈以下次号〉によって生じる耐え難い緊張と不安な期待とは、物語がどのように続くかということよりも、中断された創造行為がどう展開されるかにあった。実際、フィヤード自身、彼の映画作りにおいて同じような手順を踏んでいた。彼は続編についてのアイディアを持っていなかった。朝のインスピレーションが浮かぶままに、次々と続きのエピソードを映画化していった。作家と観客は同じ状況にあったのだ。言いかえれば、「王とシェーラザード」の関係であり、映画館の暗闇で繰り返された中断はバラバラにされた『千夜一夜物語』に比することができた。 これは、同著p.112にあるアンドレ・バザンの引用で、出典は我らの教科書『映画とは何か』の第4巻だと脚注にあります。さらに訳注によれば、「ここでバザンは、オムニバス映画と新聞連載小説を比較し、〈次回へ続く〉という中断の意味を分析している」らしいです。今手元に『映画とは何か』がないので全文は確認できてませんが、面白いですね。前回の「裏話」で触れたリールと映画の上映の話を思い返せば、そう難しい話ではないはずです。連載小説における「つづく」とオムニバス映画における中断(挿話ごとの幕間)を、アラビアンナイトでシェラザードが王を「続きはまた明日の夜にね♡」と言ってじらすことによって他の女への夜這いをやめさせた逸話とのアナロジーで語っているわけです。 ルイ・フィヤードLuis Feuillade(IMDb)については未見なので多くは語れませんし、ほとんど偶然の一致で特に周到な準備もなく「朝のインスピレーション」的にコラム『シネマテークにしねまっていこ』を綴っているため、シェラザードのように聞き手である王(読者)をじらす意図は全くありません。それでも、隔週掲載という形式を取っているため図らずも連載小説的な雰囲気が出てしまっているのは自覚していたところですので、それで少なからぬ読者の方たちがじらされているのであれば、つまり2週間のintermezzoでじれるような読者がいてくれるのであれば、書き手としてはこの上ない喜びですし、もちろんそれくらいのものは目指したいのです。まあ、アナロジーで話をするならば、間違いなく僕のコラムは、フィヤードでもシェラザードでもなく「映写機1台でフィヤードの作品をやっつけ上映したシネマテーク・フランセーズの映写技師」的と言った方が正確なのはわかっています。 さて、バザン先生が断ち切られたフィヤード作品の上映で見出した「美学的な原理」とはなんでしょう。恐らくモンタージュのことを言っているのだとして間違いはないと思いますが、どうなんでしょう。映画においては切ることと繋ぐことはほとんど同義ですから、その切ったり繋いだり(モンタージュ)から生まれる意味を、「次号につづく」、「第1話終了」、あるいは「また明日の晩♡」や「休憩intermezzo」を通じて考えようとしていたのではないかしら。やろうとしていること自体がモンタージュ的です。 言及したのは良いけれど、行き着く先を見失っていた「休憩」についての話題を拾ってくれたのもアンドレ・バザン先生でした、という裏話。ラウドの『映画愛 ~アンリ・ラングロワとシネマテーク・フランセーズ~』についてはコラム内で触れていくことにします。
by kantacantalavita
| 2007-02-23 01:31
| 映画とは何か(cinemaについて)
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イタリアのお宝発掘集団『大阪ドーナッツクラブ』。人呼んでODC。シネマテークについてのコラムを担当してました。 大阪ドーナッツクラブ公式ブログ(代表によるブログ) 『Kanta Canta La Vita』が所属する上記「大阪ドーナッツクラブ」の代表で、FM802DJポンデ雅夫のブログ。 かのうとおっさんの「ああ密談」 大阪ドーナッツクラブメンバー有北クルーラーのもうひとつの顔。 映画保存協会 日本の映画保存のある部分は、この協会が支えています。 アトリエ・マニューク 映画と映画保存とその周辺(例えばビールとか俳句とか)について書くならば僕はこうしたい、それがこのHPにあります。 赤海老ログ 本職は歌手なのに、僕にとっての彼ら二人はワインの先生です。Colli Bolognesiを共有(共憂)をしてます。 C'è profumo 日本人音楽家の多いボローニャにあって、飲み会でしか会ったことがない友人yukaちゃんのHP。ピアニスト。 ホームムービーの日 NEWS 今こそ8mm。景色を映しただけで映画になる国、イタリアに8mmカメラを持って行きます。 The Internet Movie Database 誰が呼んだかIMDb、えらく重宝します。フォーマット検索とかは最近かなり気に入ってます。 all cinema ONLINE 映画検索に重宝してます。日本語表記はあてにならない場合もあるので注意が必要です。 チネテカ・ボローニャ Cineteca Bologna。ボローニャのシネマテークです。当ブログのカテゴリー『Cineteca Bologna』はこのシネマテークの当日の上映プログラム(概ね日本語)です。 ボローニャの映画館情報(2torri.itより) チネテカ以外の映画館情報。ボローニャにはこんなにたくさん映画館があるんです。 ボローニャの図書館検索 ボローニャには相当数の図書館がありますので、映画という19世紀以降の芸術を研究する僕のような学生が探す本は大抵見つかるはずです。 イタリア国立映画博物館 Museo nazionale del cinema。トリノ。2006年8月に聖地巡礼的に訪れた際には、その建物(モーレ・アントネッリアーナ)の頂上でエレベーターが作動しなくなり、急遽ヘルメットをかぶって徒歩で地上に降りるという映画的に稀有な体験をしました。 チネテカ・イタリアーナ Cineteca italiana。ミラノのシネマテーク。「見せるための保存」を目指しているとのことで、近年新しい上映室が増設されたようです。その名に「イタリア」を冠していることからもわかるようにその歴史はボローニャのそれよりずっと古い。 チネテカ・デル・フリウリ Cineteca del Friuli。北イタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州ウーディネ県ジェモナにあるシネマテーク。このブログでも報告したポルデノーネ無声映画祭はこのシネマテークが中心になっています。イタリア国内に5つあるFIAF加盟団体の中では最もマイナーなイメージがあるが、実は違いそう。行ってみたい施設のひとつ。 チネテカ・ナツィオナーレ Cineteca nazionale。ローマにある映画実験センター。国立の映画学校で、そのシネマテークはローマのど真ん中トレヴィの泉近くにあるとか。ミラノ、ボローニャ、ローマ間では上映用のフィルムのやり取りが多いように感じてます。 東京国立近代美術館フィルムセンター 日本におけるシネマテークとは何か?考えてみます。常設展や特別展は、何時間でも過ごせます。 シネマテーク・フランセーズ Cinémathèque française。説明無用(?)、世界中のシネフィルの聖地シネマテーク・フランセーズ。2005年、多くの映画人が通ったシャイヨー宮からベルシーに移転し新しい建物になりました。写真を見た限りですが、ものっすごくきれいみたいです。住みたい。 ドイツ映画博物館 DEUTSCHES FILMMUSEUM。フランクフルトにある映画の博物館(そのまま)。ドイツ語も勉強しますか。ドイツと言えばムルナウ財団は、ボローニャのシネマテークの上映でもしばしばその名前を目にします。 オランダ映画博物館 FILMMUSEUM。アムステルダムにある映画博物館。上記ドイツ映画博物館と一緒に訪ねてみようかと計画中。学生でも6.50ユーロ、会員でも4.50ユーロとはちと高いか。(英語あり) Antonio Pignottiコレクション 2006年の「ホームムービーの日(in Italia)」で映写機などの展示をしていたコレクターの方です。いつの間にかリンクしてくれていたので、晴れて初めてイタリアのHPと相互リンクになりました。(イタリア語) Planet World 大阪梅田のシネマテーク。大阪にプラネットありと謳われた「生きた」伝説。 Planetary Film Archives 上記プラネットのフィルムアーカイブです。資料整理のお手伝いをしました。 internet bookshop ITALIA イタリアの本が買えます。バカンスシーズンやその前後を除けばかなり信頼度は高いです。送料も高いですけど。 日本の古本屋 現実世界での古本屋めぐりも好きですが、電脳世界のほうが欲しい本がみつかったりします。 comfm.com イタリアのラジオがネットで聞けます。生のイタリア語を欲してる方にはお薦めです。 RADIO MARGHERITA イタリアのポップミュージックを新旧問わずに流しまくる秀逸なHP。ホームの下のところにある「Ascolta Radio Margherita (マイクの絵)」をクリックすると、Windows Media Playerで聴くことができます。 NHKラジオイタリア語版 その日のニュース約5分と曜日ごとに決められたテーマ約10分をイタリア語で聞くことができます。他の言語もあり。イタリアのラジオに比べ、音声が安定しているように思えます。 Consorzio Vini Colli Bolognesi ワインは全く無知に等しいですが、なぜかしら「おらが村主義」は大切にしていたいのです。日本で一番「ボローニャの丘」について詳しい人になりたいです。「ボローニャの丘」ワイン協会のHP(伊語or英語)。 大相撲 がんばれ力士。 インターネットでモンドリアン こういうのも好きです。 氷温熟成 Bravo! KANTA このビールを評したずっと年下の女の子曰く、「苦味の奥に甘さがある」。ううむ。僕のことを言ってるのでしょうか。 Google日本 何かと便利。 Wikipedia Japan 何かと便利。 以前の記事
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