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KANTA CANTA LA VITA

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2007年 07月 27日

オランダに帰る理由。

昔、身欠きニシンがよく我が家の食卓に上りました。干しにしんをにんにくとしょうがと醤油で味付けしたものと記憶しています。僕にとってニシンとは、にしんそばでも昆布巻きでもなく、この酒のツマミみたいなご飯のおかずのニシンでした。

にしんが、あじやいわしのように傷むのが早い魚であることは、日本の食卓に上るそれが干物だったり濃い味付けのしてあるもでであることからもうかがい知れます。今でこそ、さんまの刺身は日本各地で食べれるようになりましたが、保存と輸送が現在のように整備される以前は、本当に新鮮な青魚の刺身は水揚げされた地でのみ食べられるものだったことは想像に難くありません。もちろん、そんな事情から様々な保存方法と料理方法が編み出され、今ではそれが本来の存在理由を失い、ある種の名物として依然喜ばれているのも明らかです。ばってらや棒寿司は僕も大好きです。

オランダに帰る理由。_e0017332_6562521.jpg前置きが長くなりました。比較の問題ではないことを考えなければ、今回のアムステルダム・フランクフルト・パリ旅行で食べた物の中で、一番美味かったのは、フランクフルトのソーセージでもビールでもなく、パリのチーズでもワインでもなく、間違いなくアムステルダムで食べた「にしん」です。あの日から、僕にとってのにしんは、「生で食べるもの」になってしまいました。それくらいの美味さだったんです。


オランダに帰る理由。_e0017332_65645100.jpgハリング(haring)と呼ばれるこのにしん、春から初夏にかけてが最盛期で、恐らく今はその最も遅い季節なのではないでしょう。それでもなんとか間に合ったことに、本当に感謝しました。その初体験は、トルコのさばサンドを凌ぐ衝撃でした。生のにしん(若干の塩味は海の塩気か知らん)をパンに挟んで、たまねぎのみじん切りときゅうりのピクルスと一緒に食べる。脂の乗った旬のにしんだからできる技です。ぷりぷりねっとりした脂っこいにしんが、意外にパンに合う。たまねぎとピクルスの爽やかさが、にしんの脂を何度もリセットする。市場を一往復する間に僕は2個食べました。翌日も1個食べました。さらにアムステルダムを発つ日の朝は、パンなしバージョンも食べました。その日最初に口にした固体がにしんでした。

オランダに帰る理由。_e0017332_6571084.jpg街を歩くと、ハリングの尻尾を持って上から吊るすようにして食いつく父とパンに挟んだハリングにかじりつく息子のポスターを何度も見かけました。インターネット上では、春の到来を祝う祭りのような、一種のイベントとして紹介してあります。新にしんを売る店も出るようです。確かに、その喜び、今では共有できる気がします。日本人の感覚では、あのハリングをたたきにしてご飯に載せたり、にんにく醤油やしょうが醤油で食べたりして楽しむこともできるでしょう。

オランダのご飯が美味しくないと言う人には、断固訴えていきたいと思います。少なくともにしんは最高に美味い。このハリングがあるならば、オランダで仕事を探そうかなあなどと、冗談で真剣に考えていたりもして。アムステルダムには世界的なフィルム・ラボもあることですしね。5年後にはこの季節のにしんを食べるためだけに、オランダで働いてる自分を想像して、それも悪くないなあなどと今では思うのです。

by kantacantalavita | 2007-07-27 06:57 | 親愛なる日記


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