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2005年 09月 24日

カテゴリー『映画とは何か』とは何か

このカテゴリーは映画保存についてのことを書こうかと思っていたのですが、思いのほかイタリア行きが遅れてしまい、ややもすると映画保存の授業に参加するのも遅れてしまいそうな、あるいはそれはほとんど確定的な今日この頃でして、遊ばせておくのももったいないからということで何か面白いことはないかなあと周りを見渡してみたら、ありました、ちょっと面白いこと。先日シネ・ヌーヴォで起こったことと、その後日談です。

 成瀬巳喜男の『流れる』のクライマックス、山田五十鈴と杉村春子が差し向かいに三味線の練習をしているシーンでした。物語内容とは関係なく唐突に画面が暗くなり、たまたまその上映を鑑賞していた女性スタッフが出入り口に走りました。何かと古いフィルムを観る機会が多い僕は、時々こういうことは起こるのを知っていたのでなんとなく見当はつきました。おそらくフィルムが切れたのです。走って出て行ったスタッフがすぐ戻り、トラブルで5分ほど時間が必要である旨を、こちらが恐縮するくらいの丁寧な詫びと共に繰り返し言っていました。上映室が明るくなり、何人かの客が席を立ちました。そうこうするうちに、もぎりのスタッフや事務スタッフまで出てきての謝罪。フィルム自体は5分も経たずつながれたようで、席を立った客が戻るのをみてから映写は再開されました。再び三味線の練習、街並み、川の遠景、そしてエンドマーク。再開からものの数十秒での終幕でした。まさかフィルムの切れた場所がよりによって最後の盛り上がりのところであったなどと知らなかった僕はやや面食らいもしましたが、まあそれまでの部分で十分楽しんだし、途切れはしたもののエンドマークまで観ることができたので満足して席を立ちました。

 ん?でも待てよ。2年ほど前、同じシネ・ヌーヴォでベルイマンの『仮面/ペルソナ(1967年)』を観たとき、音声が乱れて映写が中断し、終映後、観客一人一人に無料鑑賞券が配られたことを思い出しました。しめしめ、これでもう1本ただで観れるぞ、などと皮算用してしまいました。しかし今回は、退場する客にスタッフが謝り続けるだけでチケットはなし。まあ、でも当然ですよね。そんなことで無料チケットをばら撒いていては、映画館経営はままなりません。やや悔しがりながらも、その日は『乱れる』、『流れる』という素敵な2本に出会えたことを心から喜びながら帰路につきました。
 
 ところが世の中には、僕みたいに素直に帰ることのできない人、僕みたいに謝罪を物品と勘違いした気持ちを心の内にしまっておくことができない人がいるようです。偶然見たシネ・ヌーヴォの掲示板に、今回のフィルム切れに関して文句を並びたててる人がいました。劇場がさらに良くなるようにとの気持ちを込めたアドバイスではなく、僕までが気分を悪くしてしまうような、なんですかね、あれ、ほとんど誹謗中傷です、単なる悪口です。あの場で一人のスタッフを攻撃するなんてもってのほかに思われるわけです。「七芸」のことを持ち出すなんてお門違いもはなはだしいと思われるわけです。『「成瀬巳喜男の藝術」は斬殺され』てなんかいないと思われるわけです。
 
 今回のこの一件から僕たちが学ぶのは、「フィルムは切れる」ということです。それはニュープリントであろうと新しい作品であろうと関係なく切れるものなのです。フィルムの質が向上し燃えにくい切れにくい材質にはなってますし、映写機の性能も向上していますが、それでもフィルム自体の厚さ1mmにも満たないという形状と、動く映像として映写するためには1秒間に24コマの速さで光源の前を通り過ぎなければならないという構造を考えると、切れるなというほうが間違っているような気にもなってきます。確かに僕も、今日の封切り映画館で映画が途中で止まるなどということは何度と経験したことはなく、ある意味そういう状況に不慣れでもありますし、フィルムのことを勉強している僕でもそうなのだから何も知らなければ映画が意思に反して止まることが信じられない人もいることはわかりますし、その上でお金を払ってまで中断する映画なんか観たくないという気持ちも理解できますし、DVDのほうが便利だなんて声があるのも十分予想がつきますが、それでも、1枚1枚は静止画の映像を連続して見せることにより目の錯覚を利用して動く映像を作り出すという数世紀前の驚くべき発見を大事にしていたいし、その永遠のトリックというか遊び心というか、何かを楽しむという心持を喜んでいたいし、なにより、そんな単純で複雑な構造を持つ映画(フィルム)を愛していたいのです。
 
 より良い映画館になってもらうために注意するとかお願いするとかならわかりますが、あれはないなと思ったのでここに書きましたが、最後にもう一言。該当の投稿のタイトルが「ニュープリント切れる」で、投稿者名が「興醒め」だったのですが、これに対しシネ・ヌーヴォ側の返答の始まりが、律儀に「興醒様」となっていたことがとても面白かったです。なかなかやります、シネ・ヌーヴォ。
 
 まあいずれにしろ、今回の件で一番切れていたのは、フィルムでもなく上映でもなく、あの場にいたひとりの映画ファンだったということです。

by kantacantalavita | 2005-09-24 03:33 | 映画とは何か(cinemaについて)


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